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ピアノ主体の室内楽という贅沢
(2009/5/7、白石知雄)
2009年5月7日(木)19:30
「木曜リサイタル」作曲家シリーズ@シューベルト加藤あや子ピアノリサイタル
漆黒のグランドピアノが鎮座するサロンに、多彩なゲストを招く社交のひとと。 -- ピアノ主体の室内楽には、そんな華やいだ雰囲気がある。いかにも19世紀のヨー ロッパらしい、上品で、さりげなく贅沢なジャンルだ。
ピアノ独奏と室内楽を組み合わせて、午後七時半からはじまる大阪ナイトカルチャー事業、ムラマツリサイタルホール新大阪の「木曜リサイタル〜作曲家シリーズ」は3年目に入った。春の全6回シリーズの初日(5月7日)は加藤あや子によるシューベルト。曲目は、晩年の大作、ソナタ変ロ長調D960と、大阪フィルのチェロ奏者、庄司拓を迎えたアルペッジョーネ・ソナタ。会場には、初めてのお客さんに混じって、過去の出演者の顔も見える。ステージと客席が近いサロン風のコンサートである。
このホールが備えるライプチヒ、ブリュートナー社のピアノは、中低音の木目調の響きと、高音域の共鳴弦の輝きが相まって、独特の味わいをもつ。この楽器をどう弾くか、というのが毎回の聞き所のひとつ。加藤さんの変ロ長調ソナタは、霧の中でさまようように始まって、最後の楽章で、遂に輪郭のくっきりした出口が見える。強弱の変化を抑えて、和声や音色の移ろいが表に出るスタイルだが、靄の向こうから聞こえるフレージングは、古典派風の句読点を保っていた。慣れない楽器での試行錯誤はあっただろうけれど、古典的な語法と夢見がちの気分が二重写しになり、面白い効果を上げていた。
チェロの庄司拓は譜面台を置かず、暗譜での演奏だった。オーケストラ演奏とは違う「独り立ち」の意気込みが伝わってくる。さすらいの悲歌を思わせる冒頭からリズミカルな楽想への移行も、自然で無理がない。お行儀のよい進行の中で、主張すべきはきちんと言う存在感のある演奏だった。
留学時代に、廃墟めいたドレスデンの教会でアルペッジョーネ・ソナタを聴いた思い出、相愛大学時代の後輩だという庄司さんとの縁など、トーク・コーナーでは、興味深いお話と、加藤さんの飾らない人柄で客席が沸いた。暖かい雰囲気が育ちつつあると、秘かに自負するこのシリーズ。是非、会場へ足を運び、多くの方に体感していただきたいと思っています。
白石知雄(「木曜リサイタル」構成・監修、音楽評論家) |